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    遠くの方で誰かが呼んでいた。

    この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、

    小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。

    その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。

    徳次は笊を差出した。

    神経質な目ばたきをしながら、練吉は口早に引きとつて云つた。

    その外から見れば屋根と築地塀だけのやうな家の前で、三人の男が立つてしきりと話していた。

    半ば感心し、半ば疑はしさうに、彼は指を自分の眼に向けてみた。

    間もなく房一は別れを告げ、庭前で又馬の前に立つて二三の話をし、相沢の家を立去つて行つた。相沢のやうな家を患家に持つことは、十軒もの小患家を得たに匹敵すると、ひそかに満足しながら。そして、今日のもてなし方から考へると、医者として十分好意を与へたにちがひない、といふことにも満足しながら。

    「あゝ、えらかつたなあ」

    「どういたしまして。お茶位さし上げんと」

    ふいに、彼は頭を上げた。

    だが、今日は徳次の方でめづらしく今泉の近づいて来るのを待つていた。といふのは、今泉の方でも遠くから徳次を見つけるや否や、声にこそ出さなかつたが、何か話すことがありさうな様子で、急ぎ足になつたからである。

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