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河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
「うむ、判る?――ね?」
房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。
「理窟があるやうな無いやうな話でね。こゝの隠居は相手にならなかつたから、たうとう訴訟といふ所まで来たんだらうが、何しろ相沢の先代とこゝの隠居とは兄弟だしね、――どんな理窟があるにしてもあまり賞めた事ぢやないね」
「やあ、しばらくで」
これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」
「おつ!こりあいかん」
朝早くから徳次が探し歩いてくれたので、房一には追鮎の素晴しいのが手に入つた。浅瀬につけた追鮎箱の中で、肥つた生きのいゝそいつは青黒い美しい背をたえまなく左右に動かしながら、きれいな水に洗はれて、たとへやうもなく靱しなやかに強く見えた。鼻先に短い針を通して糸につけて放すと、そいつはいきなり激しい力をもつて水の深みに走つて行つた。
最後に行つた家は河上の小一里るある辺で、そこいらは人家は数へるほどしかなく、河つ縁ぷちに沿つた段々畑の中を幅の広い国道だけがほの白く浮いて、次第下りに河原町の方へつゞいていた。軽くペタルを踏むだけで、彼の乗つた自転車は半ばひとりでに快い同じ速度で走つた。
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