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    と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。

    「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。

    「えらい評判ですなあ。けつこうですよ。ぜひ話しに来て下さい。わたしはこんなにいつもひまですからな」

    すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、

    「いゝえ、なんの。おれんとこへなんか。――あんたは忙しい身だもの」

    「あなたは、多分――」

    「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」

    と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。

    腹に物がつめこまれると、さつきはあんなにへたばつてしまつた神主の一隊もどうにか元気がついたやうであつた。これからいよいよ町通りである。自分の家の前を、妻子や使用人達がずらりと見物している中を、しやちこ張つて、堂々と歩かねばならないのである。で、大半はいつのまにか草履や下駄にはきかへていたものの、まだあの木箱をひきずるがらがらいふ音をたてて、紅い色の滲んだ、紙衣の神官達は、笏を前に構へ、気を張つて真正面を向いたまゝ繰り出して来た。俳優で云へば、まさに花道の出にさしかかつて来たところである。

    「さうですか」

    「小倉組の連中が来たちふぢやないかね。ほんとうかね」

    練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。

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