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ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。
それは何となく不思議なことだつた。家にいたところで別に賑かに喋しやべり立てるわけでもなし、むしろ年中窮屈さうに不服ありげに無口で固い顔をしている茂子が、今この家にいないと知つただけで、こんなに伸び伸びし、自分がさう思ふだけでなく、そこらにある家具までが何となく気楽さうに見えるとは!
「別に惜しいほどのことではありませんよ」つづけて、ふいに調子を変へると、
房一はまだ考へ深さうにしていた。
ところが驚いたことにはこの男は、房一があらゆる初対面でやる鹿爪らしい挨拶の文句を今やはじめようとしたときに、いきなり前に立ちはだかるやうに、と云ふより、殆ど気づまりのするほど真正面に近々と顔をよせて、おまけに露骨に房一の顔を見入りながら、
「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」
「どうも御苦労さま、暑いところを」
「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。
「大きいかね」
男はその時、案外なほど寂しみのある表情を浮かべ、頬杖をついてぼんやり戸口の方に顔を向けていたが、眼だけをちよつと動かせた。だが、知らぬふりでビールを口へ持つて行つた。
と、一向にそんなことを知らない房一が云つた。
房一は苦笑した。
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